大量調理を支えてきた”道具”の進化の歴史 ── まな板からヘラまで、現場の声とともに歩んだ道
大量調理と聞くと、巨大な釜や加熱機器を思い浮かべる人も多いかもしれません。
しかし、もっと身近な存在──まな板、包丁、ヘラ、お玉、バットなどの“道具”も現場の調理を支えてきました。
一見シンプルなこれらの道具にも、長い歴史と進化の積み重ねがあります。
今回は、そんな大量調理の現場で毎日使われる道具たちが、どのように変わってきたのかをざっくりと振り返る読み物としてお届けします。
1. 昔の大量調理(〜昭和)
──木と鉄の温もりと、現場の技術がすべてだった時代

昭和の厨房の主役といえば、大きな木製まな板と木製のヘラ、炭素鋼の包丁でした。
木の香りが残るまな板、身の丈ほどある大きな木製ヘラ、黒光りする包丁、それらを巧みに使いこなす調理員さんの腕前が、料理の品質を左右していました。ただ、その扱いは簡単ではありません。
- 木製品は水を吸いやすく、乾燥が甘いと割れやすい
- 炭素鋼の包丁は錆びやすく、こまめな手入れが必須
- 刃の研ぎ方ひとつで切れ味が大きく変化
- 大量の食材を刻むため、まな板も包丁もすぐに“くたびれる”
そして、大量調理ではこれらの道具を人数分揃える必要があり、手入れの手間も相当なもの。とくに木製まな板は毎日の天日干しが欠かせず、天気が悪い時期にはその管理に頭を悩ませたという声も多く聞かれます。
とはいえ、木と鉄の道具は温かみがあり、長年の職人によって培われた技術と相性がよかったため、この時代ならではの“味わい”がありました。
2. 平成以降の変化
──ステンレス化、樹脂化、衛生管理の時代へ
平成に入る頃から、大量調理の現場は大きな転換期を迎えます。
衛生基準の整備が進み、「洗いやすさ」「衛生管理のしやすさ」「耐久性」が重要視されるようになりました。ここから、道具類の素材も大きく変わっていきます。
樹脂製まな板の普及
- 水を吸わない
- 漂白ができる
- 大きさや厚みを自由に選べる
- カビにくい
とくに大量調理用で使われるまな板は、樹脂化によってメンテナンス性が劇的に改善。
洗浄・消毒・乾燥させやすくなり、衛生面の課題も大きく解消されました。
ステンレス包丁の標準化
- 錆びにくく手入れが簡単
- 切れ味の持続性が高い
炭素鋼の包丁のような手間はかからず、お手入れの頻度も抑えられることで大量調理の現場に適した選択肢となりました。
軽量化・耐熱化
- 耐熱樹脂やステンレス製が増加
- 火に強く、溶けにくく、力が伝わりやすい
- 手首への負担が大幅に軽減
この時代は、“個人の技術”ありきだった昭和から、“誰でも安全に使える道具づくり”へと大きく進化した時期といえます。さらに時代が進むにつれ衛生管理、異物混入対策などに注力した特徴の製品も増えてきたようです。
使いやすさの向上
握る部分の角度や素材にこだわり、滑りにくさ・握りやすさを追求した製品が増えています。
耐熱性、耐久性能の向上
耐熱性の重要度が非常に高い煮込みや炒め物を大量に作る現場では、お玉やターナーの素材も、より丈夫で異物を発生させにくい長持ちする方向へ進化しています。
“洗いやすさ”への徹底的な配慮
- 継ぎ目が少ない構造
- 食材が入り込まない一体成型
- 分解洗浄できるハンドル
など大量調理では「洗浄のしやすさ=衛生管理のしやすさ」であり、最も見られるポイントのひとつです。
色分けによる食材の交差汚染防止
まな板・包丁・トング・バットなどを色別に管理することで、アレルギー対応や衛生管理を徹底できます。現代の大量調理では、色分けはすでに一般的な文化となっています。
4. これからの未来
──道具が賢くなるより、管理が進化する方向へ
調理道具は機械と違って、AIなどが直接組み込まれる可能性は少ないかもしれません。しかし、「管理の仕組み」が確実に進化していくでしょう。
傷・摩耗の見える化
「まな板や包丁の交換時期」は現場の方にとって気になるポイントの一つではないでしょうか。深い傷や削れは衛生リスクにつながるため、製品の傷や状態から、交換時期を算出するような管理を自動化するシステムなどがあってもおもしろいかもしれません。
リサイクル素材の活用
SDGsの観点から、樹脂まな板や他調理道具の素材を循環させる試みが増えています。
軽量化と高耐久を両立する素材技術
より軽く、より丈夫で、より衛生的な素材の研究が進んでいます。
未来の大量調理では、“道具そのものの性能”だけでなく、
「いつ・誰が・どのように使うか」を管理する仕組みが重要になるでしょう。
5. おわりに
──大量調理を支える現場の道具
まな板、包丁、ヘラ、お玉。どれも一見シンプルですが、実は大量調理の歴史とともに進化してきた重要なパートナーです。
昭和は木と鉄の時代、平成は衛生管理と素材革新の時代、令和は使いやすさと安全性の最適化の時代。そしてこれからは、道具と管理の両軸で、より安全で効率的な厨房が求められていきます。道具は、ただの“モノ”ではなく、現場の声とともに進化してきた技術の結晶。私たちメーカーは、そんな現場の声をこれからも大切にしながら、
もっと安心して使える調理道具を追求していきます。

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